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COLUMN — METRICSROEとPBRの分解で投資家が読む項目と、業種別のROEの分布

ROEとPBRは、決算説明資料や「資本コストや株価を意識した経営」の開示でよく使われる指標です。ただ、ROEの水準は業種によって大きく違い、同じROEでも利益率で稼ぐ会社と資産の回転で稼ぐ会社とでは、投資家が次に確かめる項目が変わります。この記事では、ROEとPBRの算式と有価証券報告書での定義、デュポン分解の3項目の読み方を整理し、IRAIで取得した有価証券報告書のデータから、4業種のROEの分布と3項目の中央値を示します。
01ROEとPBRの算式と開示上の定義
POINTROEは親会社株主に帰属する当期純利益を自己資本で割った比率で、有価証券報告書の記載は開示府令が定めている。PBRはROEとPERの積に分けられる。
自己資本利益率(以下「ROE」)は、有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」に記載する指標です。企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」)の第二号様式 記載上の注意(25)は、ROEを、親会社株主に帰属する当期純利益金額を純資産額から新株予約権・株式引受権と非支配株主持分を控除した額で除した割合と定めています。同じ記載上の注意は株価収益率(以下「PER」)を、連結決算日の株価を1株当たり当期純利益金額で除した割合と定めています。株価純資産倍率(以下「PBR」)は記載項目にありません。
PBRは株価を1株当たり純資産で割った倍率です。分子と分母の間に1株当たり当期純利益を挟むと、PBR=ROE×PERに分けられます。この式がそのまま成り立つのは、ROEとPERで同じ利益と同じ自己資本を使った場合です。有価証券報告書のROEとPERを掛け合わせても、会社が説明資料に載せたPBRと一致しないことがあります。
東京証券取引所(以下「東証」)は2023年3月31日の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」で、現状分析に使う指標の例として、資本収益性にROICとROE、市場評価に株価・時価総額・PBR・PERを挙げ、株主資本コストとの比較でROEを使う方法を示しています。同じ資料は、PBR1倍割れを、資本コストを上回る資本収益性を達成できていないか、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される1つの目安としています。東証の2026年4月7日の資料では、2026年3月時点でPBR1倍割れの会社はプライム市場で27%、スタンダード市場で49%です。
02デュポン分解の3項目と投資家が読む項目
POINTROEは売上高純利益率・総資産回転率・財務レバレッジの積に分けられる。投資家はROEの水準と並べて、どの項目で稼いでいるか、その項目が翌年も続くかを確かめる。
ROE(当期純利益÷自己資本)は、間に売上高と総資産を挟むと、売上高純利益率(当期純利益÷売上高)、総資産回転率(売上高÷総資産)、財務レバレッジ(総資産÷自己資本)の積に分けられます。デュポン分解と呼ばれる分け方です。経済産業省の伊藤レポートも、ROEを売上高利益率、資本回転率、レバレッジに分解する見方を示しています。
投資家の側では、ROEが前年から動いた理由がどの項目にあるかを先に確かめます。純利益率が上がった会社には価格改定や製品構成の変化が来期も続くかを聞き、総資産回転率が上がった会社には在庫や売上債権の圧縮によるものかを聞く、というように質問が決まっていきます。財務レバレッジは、借入れを増やした場合にも、自己株式を取得して自己資本が減った場合にも上がります。利益の増加を伴わないROEの上昇は、この財務レバレッジの動きとして分けて読まれます。
固定資産や投資有価証券の売却益のような特別利益で当期純利益が増えた年は、ROEが上がっても翌年には続きません。投資家は純利益率を営業利益率と並べ、本業の利益率が動いたのかを確かめます。
総資産回転率と財務レバレッジは、期末残高で計算するか、期首と期末の平均残高で計算するかで値が変わります。残高の取り方が違うと3項目の積が説明資料のROEと合わなくなるため、計算に使った残高を注記します。
03業種別のROEの分布
POINT2025年度の有価証券報告書の開示値で、ROEの中央値は全上場会社が8.5%、情報・通信業が12.6%、化学が6.9%。ROEが8%以上の会社の割合は、情報・通信業の70.1%から化学の40.1%まで開く。
IR支援室は、有価証券報告書のXBRLデータを収録したIRAIで、2025年度(期末が2025年1月〜12月の事業年度)のROEの開示値(指標コード roe_reported)を、東証33業種のうち情報・通信業、小売業、機械、化学の4業種と、全上場会社について集計しました。対象は2026年10月31日版のデータで現在上場している会社です。連結財務諸表を作る会社は連結、作らない会社は単体の値で、IFRS適用会社は親会社所有者帰属持分当期利益率を含みます。
四分位の幅(第1四分位から第3四分位まで)は、情報・通信業が13.2ポイント(6.6%〜19.8%)、化学が6.0ポイント(4.0%〜10.0%)です。情報・通信業は中央値が高い一方で同じ業種の中の差も大きく、業種の平均や中央値と比べるだけでは、自社の位置を説明しきれません。
図の8%の線は、伊藤レポート(2014年8月)の記述によります。同報告書は、個々の企業の資本コストの水準は異なるとしたうえで、グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきだと述べています。その根拠として、グローバルな機関投資家が日本企業に期待する資本コストの平均が7%超との調査結果を挙げています。東証の2026年4月7日の資料でも、2026年3月時点でROE8%未満の会社はプライム市場で43%、スタンダード市場で60%です。

決算説明資料の作成をIR支援室が支援します
ROEの分解や同業との比較の頁を含めて説明資料を作り、算式と数値が有価証券報告書と一致しているかを公認会計士が確認します。支援メニューを見る →04業種別のデュポン分解の3項目の中央値
POINT3項目の中央値(算出値)は、小売業が総資産回転率1.47回・財務レバレッジ2.20倍と高く、純利益率は2.6%。機械は純利益率6.5%に対して回転率0.72回。ROEは3項目の構成まで並べて比べる。
同じ年度・同じ母集団で、IRAIが計算した3項目(指標コード net_profit_margin、total_asset_turnover、financial_leverage)の中央値を並べたのが次の表です。3項目はIRAIの算出値で、純利益率の分子は連結の会社では親会社株主に帰属する当期純利益、総資産回転率と財務レバレッジは期末残高で計算しています。
| 業種 | ROE(開示値) | 売上高純利益率 | 総資産回転率 | 財務レバレッジ | 社数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全上場会社 | 8.5% | 4.4% | 0.90回 | 1.82倍 | 3,794社 |
| 情報・通信業 | 12.6% | 6.3% | 0.96回 | 1.61倍 | 613社 |
| 小売業 | 8.8% | 2.6% | 1.47回 | 2.20倍 | 322社 |
| 機械 | 7.4% | 6.5% | 0.72回 | 1.56倍 | 210社 |
| 化学 | 6.9% | 4.9% | 0.77回 | 1.59倍 | 201社 |
IRAI(有価証券報告書のXBRLデータ、2026年10月31日版)をもとにIR支援室作成。2025年度、現在上場している会社。値はいずれも中央値。社数は母集団の社数で、値のある社数は指標ごとに異なる(ROEは全上場会社3,555社、情報・通信業541社、小売業304社、機械205社、化学197社)。
小売業は純利益率の中央値が2.6%と4業種で最も低い一方、総資産回転率と財務レバレッジが高く、ROEの中央値は8.8%です。機械は純利益率が6.5%と小売業の2倍以上ありながら、総資産回転率が0.72回にとどまり、ROEの中央値は7.4%です。同じROEの水準でも、小売業の会社は売上の伸びと在庫の回転を、機械の会社は受注残の水準と、設備や在庫に投じた資産の使い方を聞かれることになります。
なお、3項目の中央値を掛け合わせても、ROEの中央値にはなりません。情報・通信業では6.3%×0.96×1.61で約9.7%となり、開示値の中央値12.6%と開きます。中央値は指標ごとに別の会社の値であることと、開示値のROEとIRAIの3項目とで残高の取り方が違い得ることが理由です。
投資家は、3項目のどれが業種の中央値より上か下かを見て、同業の中での稼ぎ方の違いをつかみます。純利益率が業種の中央値を上回る小売業の会社であれば、その理由を面談で確かめます。
業種との比較を決算説明資料に載せるときは、業種分類(東証33業種など)、年度、社数、中央値か平均値かを図の注記に書きます。会社が選んだ同業他社と比べる場合は、選んだ会社名と選んだ理由も書きます。
05決算説明資料でROEとPBRを示すときの記載事項
POINTROEは算式と残高の取り方を、PBRとPERは株価の基準日を書く。3項目の推移と株主資本コストの前提を並べると、投資家は改善の道筋を数値で追える。
東証の2023年3月の資料は、資本コストは現状分析のために把握するもので、必ずしも精緻に算出することが目的ではないとし、資本コストの数値自体の開示も必ずしも求められないとしています。そのうえで、ROEやPBRを説明資料に載せるときに投資家が読み違えないよう、次の事項を書いておきます。
ROEの算式と残高の取り方を書く
分子が親会社株主に帰属する当期純利益であること、分母の自己資本を期末残高で取るか期首と期末の平均で取るかを書きます。有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」と違う計算をする場合は、両方の値を並べるか違いを注記します。
3項目の推移を5期分並べる
主要な経営指標等の推移と同じ5期分の純利益率・総資産回転率・財務レバレッジを並べます。特別利益・特別損失の大きい期は、その金額と内容を脚注に書きます。
株主資本コストの前提を書く
株主資本コストの数値を示す場合は、推計の方法と、使った数値の出所と時点を書きます。数値を示さない場合も、ROEと比べる水準をどう考えているかを文章で説明します。
PBRとPERは株価の基準日を書く
有価証券報告書のPERは決算日の株価で計算しています。説明資料で資料作成日の株価や期中平均の株価を使う場合は、その日付と、1株当たり純資産を期末の値で取ったかを書きます。
—まとめ
ROEは、開示府令が算式を定め、有価証券報告書に5期分が載る指標です。投資家はその水準だけでなく、売上高純利益率・総資産回転率・財務レバレッジのどれでROEを稼いでいるかを分けて読み、業種の分布の中で自社がどこにいるかを確かめます。IRAIで集計した2025年度の開示値では、ROEの中央値は情報・通信業の12.6%から化学の6.9%まで開き、3項目の構成も業種ごとに違います。PBRはROEとPERの積に分けられるため、PBRを説明するときもROEの分解から始めると、資本収益性と市場の評価のどちらに課題があるかを投資家に示せます。決算説明資料には、算式、残高の取り方、株価の基準日、比較した業種と社数を注記として添えておきます。
執筆
石塚 康一公認会計士/株式会社プライムコンサルティング 代表取締役
監査法人のIPO部門と、証券会社の投資銀行部門(主幹事証券会社の公開引受部)を経て、株式会社プライムコンサルティング代表取締役。数十社の上場準備に携わり、開示書類の作成と会計論点の検討を受け持ってきました。IR支援室では、決算説明資料・ロードショーマテリアルの作成と、会計面の確認を担当しています。
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相談を申し込む出典
- 企業内容等の開示に関する内閣府令 第二号様式(記載上の注意(25) 主要な経営指標等の推移) https://laws.e-gov.go.jp/data/MinisterialOrdinance/348M50000040005/610159_1/pict/2FH00000065829.pdf
- 株式会社東京証券取引所 上場部「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」2023年3月31日(2025年5月更新) https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/jr4eth0000004vj2-att/jr4eth0000004w6n.pdf
- 株式会社東京証券取引所 上場部「「資本コストや株価を意識した経営」に関する4年目の取組み」2026年4月7日 https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/t13vrt000000vg32.pdf
- 経済産業省「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト(伊藤レポート)最終報告書」2014年8月 https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/pdf/itoreport.pdf
- IRAI(有価証券報告書のXBRLデータ。出典:金融庁 EDINET、編集・加工:IRAI 運営者)2026年10月31日版。指標コード roe_reported、net_profit_margin、total_asset_turnover、financial_leverage


