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フェア・ディスクロージャー・ルールで投資家面談の前に決めておく情報管理の範囲と答え方

執筆:石塚康一(公認会計士)2026年11月読了の目安 13分

面談前の情報管理 フェア・ディスクロージャー・ルールと答えられる範囲

機関投資家やアナリストとの個別面談で、どこまで答えてよいか分からず、決算の数字の読み上げに終始してしまう会社は少なくありません。上場会社が投資家に未公表の重要な情報を伝えるときのルールは、金融商品取引法第27条の36以下のフェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」)が定めています。この記事では、FDルールの対象と公表の義務、金融庁のガイドラインが示す情報管理の範囲と話題ごとの扱いを整理し、面談の前に社内で決めておく事項を手順にまとめます。

01FDルールの対象と公表の義務

POINT上場会社の役員等が、業務に関して取引関係者へ重要情報を伝えるときは、伝達と同時に公表する。意図せず伝えた場合は、知った後速やかに公表する。

FDルールは2017年の金融商品取引法改正で新設され、2018年4月1日から適用されています。第27条の36第1項は、上場会社等またはその役員等が、その業務に関して取引関係者に重要情報を伝達する場合には、伝達と同時にその重要情報を公表しなければならない、と定めています。

重要情報は、上場会社等の運営、業務または財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすものをいいます。取引関係者には二つの類型があります。一つは証券会社(金融商品取引業者)、登録金融機関、信用格付業者、投資法人などとその役員等で、もう一つは、上場会社等の投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受け、その情報に基づいて売買等を行う蓋然性の高い者として内閣府令が定める者です。後者には株主、適格機関投資家、投資を主な目的とする法人、説明会の参加者などが入るため、IRの面談の相手方はほぼすべて取引関係者にあたります。

相手方が法令または契約により守秘義務と売買等をしない義務を負っている場合は、公表は要りません(同項ただし書)。意図せず伝えてしまった場合や、伝えた情報が重要情報にあたると知らなかった場合は、伝達が行われたことを知った後、速やかに公表します(同条第2項)。公表の方法は「重要情報の公表に関する内閣府令」第10条が定めており、EDINETへの法定開示書類の提出、取引所への通知(TDnetでの適時開示)、2以上の報道機関への公開と12時間の経過、自社ウェブサイトへの掲載(1年以上、無償で容易に閲覧できる場合に限る)のいずれかによります。

上場会社等の役員等が、業務に関して情報を伝える Q1 伝える相手は取引関係者か 証券会社・投資運用業者等の役員等、株主・適格機関投資家・ 説明会の参加者など(第27条の36第1項各号) いいえ FDルールの対象外 はい Q2 伝える情報は重要情報か 公表されていない重要な情報で、投資者の投資判断に 重要な影響を及ぼすもの(同項) いいえ 公表は不要 はい Q3 相手が守秘義務と売買をしない義務を負うか 法令または契約による義務(同項ただし書) はい 公表は不要(ただし書) いいえ 意図的に伝える場合 伝達と同時に公表(第1項) 意図せず伝えた・重要情報と知らなかった場合 知った後、速やかに公表(第2項) 上場会社等の役員等が、業務に関して情報を伝える Q1 伝える相手は取引関係者か 証券会社・投資運用業者等の役員等、 株主・適格機関投資家・説明会の参加者など いいえ → FDルールの対象外 はい Q2 伝える情報は重要情報か 公表されていない重要な情報で、 投資判断に重要な影響を及ぼすもの いいえ → 公表は不要 はい Q3 相手が守秘義務と   売買をしない義務を負うか 法令または契約による義務 はい → 公表は不要(ただし書) いいえ 意図的に伝える場合 伝達と同時に公表(第1項) 意図せず伝えた・重要情報と知らなかった場合 知った後、速やかに公表(第2項)
FIG.1FDルールで公表が必要かの判定。金融商品取引法第27条の36、重要情報の公表に関する内閣府令をもとにIR支援室作成。取引関係者の範囲と適用除外の細目は内閣府令で確認してください。

02ガイドラインが示す情報管理の範囲

POINT金融庁のガイドラインは、管理する情報の範囲を会社が選べるとしている。最低限の範囲は、インサイダー取引規制の対象情報と、株価に重要な影響を及ぼす確定的な決算情報。

条文の「重要情報」は、インサイダー取引規制の重要事実のように項目が列挙されていません。そこで金融庁は2018年2月6日、「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」(以下「ガイドライン」)を公表し、上場会社が管理する情報の範囲を問2で示しました。ガイドラインは2018年4月1日に適用されています。

問2は、会社が自社の状況に応じて選べる管理の方法を並べています。グローバルに事業を行う会社は、海外の規制も念頭に独自の基準を設けて管理する方法をとれます。それ以外の会社では、インサイダー取引規制の対象となる情報と、公表されれば有価証券の価額に重要な影響を及ぼす蓋然性のある決算情報を管理する方法が、ガイドラインが示す最低限の範囲です。決算情報のうちどれが重要かの判断が難しい会社は、公表前の確定的な決算情報をすべて管理の対象にします。

ここでいう決算情報について、金融庁はパブリックコメントへの回答(No.4)で、年度または四半期の決算に係る確定的な財務情報を指すと説明しています。売上の伸びのような定性的な情報でも、株価に重要な影響を及ぼす蓋然性があれば対象になり得るとしています。

確定的な決算情報をすべて管理する方法 決算情報の重要性の判断が難しい会社向け 重要な影響を及ぼす決算情報も管理する方法 ガイドラインが示す最低限の範囲 インサイダー取引規制の対象となる情報 どの方法でも管理の対象に含める (重要事実・公開買付け等事実) 独自の基準で管理する方法 海外の規制も念頭に、 自社で基準を設けて 重要情報を管理する グローバルに事業を行う 会社を想定 確定的な決算情報をすべて管理する方法 決算情報の重要性の判断が難しい会社向け 重要な影響を及ぼす決算情報も 管理する方法 ガイドラインが示す最低限の範囲 インサイダー取引規制の 対象となる情報 どの方法でも管理の対象に含める (重要事実・公開買付け等事実) 独自の基準で管理する方法 海外の規制も念頭に、自社で基準を 設けて重要情報を管理する グローバルに事業を行う会社を想定
FIG.2ガイドライン問2が示す情報管理の範囲。内側ほど狭く、中央の枠が最低限の範囲。金融庁「フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン」(2018年2月6日)をもとにIR支援室作成。

03面談の話題ごとの扱い

POINT中長期の戦略の議論、公表済みの数値の補足、工場見学などで得られる情報は、通常それ自体では重要情報にあたらない。公表直前の具体的な利益計画は対象になり得る。

面談で実際に迷うのは、話題ごとの線引きです。ガイドラインの問4は、企業の将来情報に関する議論の扱いを例で示しています。中長期的な企業戦略・計画に関する経営者との建設的な議論の内容は、通常それ自体では重要情報にあたりません。ただし、中期経営計画の公表直前に、その計画の具体的な利益の数値を伝えれば、重要情報にあたる可能性があります。

公表済みの情報の補足説明や、業績予想の前提となる経済の見通しも、通常は重要情報にあたりません。一方で、契約済みの為替予約のレートのように、実際の為替相場と比べるだけで業績の変化を容易に推測できる数値は、重要情報にあたる可能性があるとガイドラインは述べています。工場見学や事業別の説明会で一般に提供される情報は、他の情報と組み合わせて初めて投資判断に使える「モザイク情報」として、通常それ自体では重要情報にあたりません。

面談で出る話題ガイドライン等での扱い根拠
中長期の企業戦略・計画に関する経営者との議論通常、それ自体では重要情報にあたらない問4①
中期経営計画の公表直前に、具体的な利益計画を伝える重要情報にあたる可能性がある問4①
公表済みの業績予想の補足説明、前提となる経済見通し通常、重要情報にあたらない問4②
契約済みの為替予約レートなど、業績の変化を容易に推測できる数値重要情報にあたる可能性がある問4②
工場見学・事業別説明会で一般に提供される情報モザイク情報。通常、それ自体では重要情報にあたらない問4③
月次の売上等の数値一般に、それ自体では「決算情報」にあたらないパブリックコメント No.4
公表前の年度・四半期の確定的な決算情報株価に重要な影響を及ぼす蓋然性があれば管理の対象問2、パブリックコメント No.4

金融庁「フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン」、同「パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(2018年2月6日)をもとにIR支援室作成。実際の該当性は、伝える情報の内容と時期によって個別に判断します。

FOR INVESTORS

投資家が面談で確かめたいのは、公表済みの数値の背景にある増減の要因、計画の前提、経営陣の優先順位です。東証の「IR体制・IR活動に関する投資者の声」も、投資者が個別面談で求めているのは未公表の情報ではなく中長期の戦略や資本政策の理解だとしています。

DISCLOSURE

中期経営計画や業績予想の修正を公表する前の時期は、具体的な利益の数値や為替予約のレートに触れない、と面談の担当者の間で決めておきます。公表済みの資料のどの頁で答えるかを想定問答に書いておくと、担当者ごとの説明のずれも防げます。

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04意図せず重要情報を伝えた場合の公表

POINT話の流れで伝えてしまった場合は、伝達を知った後速やかに公表する。取引関係者から指摘を受けた場合は、対話で該当性を確かめ、該当すれば公表する。

内閣府令第8条は、上場会社等の役員等が業務に関して取引関係者に意図せず重要情報を伝達した場合を、同時の公表が困難な場合として定めています。ガイドラインの問8は、伝える予定のなかった重要情報を、面談の話の流れで伝えてしまった場合がこれにあたると説明しています。この場合も公表の義務は残り、伝達が行われたことを知った後、速やかに公表します。

面談の後に投資家やアナリストの側から「重要情報ではないか」と指摘を受けることもあります。ガイドラインの問3は、取引関係者との対話を通じて確かめ、重要情報にあたると認めれば速やかに公表し、あたらないと判断すれば公表は要らないとしています。重要情報にあたるものの直ちに公表するのが適切でない場合には、公表できるまで相手方に守秘義務と売買等をしない義務を負ってもらう対応も挙げています。金融庁はパブリックコメントへの回答で、該当するかどうかは双方の合意ではなく、伝えた情報の性質で決まると述べています。

FOR INVESTORS

未公表の重要情報を受け取った投資家は、その情報が公表されるまで、その銘柄の売買を控えざるを得なくなります。面談の後に会社が速やかに公表すれば、投資家の側の制約も早く解けます。

DISCLOSURE

速やかに公表する方法は、TDnetでの適時開示か、自社ウェブサイトへの掲載が現実的です。ウェブサイトに載せる場合は、1年以上、無償で容易に閲覧できる状態にしておく必要があります。誰が該当性を判断し、どの方法で公表するかを先に決めておきます。

05面談の前に社内で決めておく事項

POINT管理する情報の範囲、面談で答える範囲、伝えてしまった場合の公表の手順を、社内規程とディスクロージャーポリシーに書いておく。

2026年7月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードは、株主との建設的な対話を促進するための方針を原則1-1に置き、その解釈指針で、対話に際してのインサイダー情報やFDルールが適用される重要情報の管理に関する方策を方針に記載するよう求めています。改訂前の補充原則5-1②にあった項目で、東証は、改訂を踏まえて更新したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限を2027年7月末日としています。方針に書く方策の中身として、次の順で決めておきます。

  1. 管理する情報の範囲を社内規程で決める

    ガイドライン問2の方法から自社に合うものを選び、インサイダー取引防止規程や情報管理規程に書きます。決算情報をどの時点から管理の対象にするか(月次決算の確定時、取締役会への報告時など)も決めます。

  2. 面談で答える範囲を公表済みの資料にそろえる

    決算短信、決算説明資料、有価証券報告書、中期経営計画のどの頁で答えるかを想定問答に書きます。業績予想の前提、為替の感応度など、公表しておけば面談で答えられる数値は、説明資料に載せておきます。

  3. 決算発表前の面談の扱いを決める

    決算発表前に面談を控える期間(いわゆる沈黙期間)は法令の定めではなく、各社がディスクロージャーポリシーで決めるものです。期間の長さと、期間中に受ける面談の範囲を決めて公表しておきます。

  4. 面談の出席者と記録の残し方を決める

    面談には説明者のほかに記録の担当者が同席し、質問と回答を記録します。記録があれば、意図せず伝えた情報があったかを面談の後に確かめられ、取引関係者から指摘を受けたときの判断にも使えます。

  5. 伝えてしまった場合の判断者と公表の手順を決める

    重要情報にあたるかを判断する担当役員(情報取扱責任者など)と、TDnetまたは自社ウェブサイトで公表するまでの社内の手順を決めます。適時開示の社内手続と同じ担当者にしておくと、判断が早くなります。

—まとめ

FDルールが求めているのは、未公表の重要情報を一部の投資家にだけ伝えないことで、面談そのものを控えることではありません。金融庁のガイドラインは、中長期の戦略の議論や公表済みの数値の補足説明を、通常は重要情報にあたらないものとしています。東証が公表した投資者の声でも、FDルールを理由に個別面談を断ることは改善が期待される例に挙がっています。面談の前に、管理する情報の範囲を社内規程で決め、答える範囲を公表済みの資料にそろえ、伝えてしまった場合の公表の手順まで決めておけば、面談では公表済みの数値の背景を経営陣の言葉で説明することに時間を使えます。2026年7月改訂のコーポレートガバナンス・コードの原則1-1に沿って対話の方針を見直す際に、あわせて点検しておくとよい事項です。

石塚康一

執筆

石塚 康一公認会計士/株式会社プライムコンサルティング 代表取締役

監査法人のIPO部門と、証券会社の投資銀行部門(主幹事証券会社の公開引受部)を経て、株式会社プライムコンサルティング代表取締役。数十社の上場準備に携わり、開示書類の作成と会計論点の検討を受け持ってきました。IR支援室では、決算説明資料・ロードショーマテリアルの作成と、会計面の確認を担当しています。

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出典

  1. 金融庁「「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」の公表について」2018年2月6日(ガイドライン本文、パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方) https://www.fsa.go.jp/news/29/syouken/20180206.html
  2. 金融庁「金融商品取引法の一部を改正する法律案 新旧対照表」(第193回国会提出、第27条の36) https://www.fsa.go.jp/common/diet/193/02/shinkyuu.pdf
  3. 重要情報の公表に関する内閣府令(平成29年内閣府令第54号) https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3431/tb
  4. 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年7月21日(改訂前からの変更点、コーポレートガバナンス報告書の更新について) https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20260410-01.html
  5. 株式会社東京証券取引所「IR体制・IR活動に関する投資者の声」の公表について 2025年7月22日 https://www.jpx.co.jp/news/1020/20250722-01.html

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