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COLUMN — MEETING決算説明会の質疑応答を書き起こして公開する手順と、公開の範囲

決算説明会の後に、動画や説明部分のスクリプトは載せていても、質疑応答は載せていない会社や、要旨だけを載せている会社があります。株式会社東京証券取引所(以下「東証」)が2025年7月22日に公表した「IR体制・IR活動に関する投資者の声」(以下「投資者の声」)は、質疑応答を除いたスクリプトや、重要な課題の質疑だけを省いた要旨を、改善が期待される例に挙げました。この記事では、質疑応答の公開に関する東証の資料とフェア・ディスクロージャー・ルールとの関係、公開の形式ごとの違いを整理し、説明会の当日から公開までの社内の手順をまとめます。
01質疑応答の公開に関する東証の資料
POINT投資者の声は、質疑応答を除いたスクリプトや、重要な課題の質疑だけを省いた要旨を改善が期待される例に挙げ、質疑応答を含めた公平な情報提供を求めている。
東証は2025年7月22日から、全上場会社にIR体制の整備を義務付けています。同日公表した投資者の声は、IR説明会の改善が期待される事例として、決算説明会を対面でのみ開く例と並べて、説明会の終了後に会社の説明部分のスクリプトだけを公表し、質疑応答は公表しない例を挙げています。
同資料に載った投資者の声は、カバレッジ銘柄が数千に及ぶ投資家はすべての説明会に参加できないため、アーカイブ配信やスクリプトの提供が重要だと述べています。そのうえで、スクリプトから質疑応答を除いたり、経営上の重要な課題についての質疑だけを掲載せずに要旨として公表したりする企業があると指摘し、どのような質疑応答がなされたかは説明会資料からは読み取れない重要な情報だとしています。
評価されている事例は、同資料が社名を挙げて載せています。インターネットイニシアティブについては英文資料の同日開示と質疑応答部分を含めた説明会資料の開示、東亜建設工業については決算説明会の早期化と和英による書き起こしの配信を挙げています。三陽商会については説明会の書き起こしとその英訳、オリックスについては決算説明会の資料と音声を和英でウェブサイトに当日中に掲載していることが、評価の理由として書かれています。
「資本コストや株価を意識した経営」に関する資料でも、質疑の開示に触れた事例があります。東証が2025年12月26日に更新した「投資家の視点を踏まえたポイント」は、対話の実施状況を開示するポイントの事例として、カンロが投資家との対話状況や主な質問と回答を開示していることを挙げています。
02FDルールと自社ウェブサイトでの公表の要件
POINT説明会の参加者は取引関係者にあたる。質疑で未公表の重要情報を話してしまった場合は、書き起こしの公開を待たず、TDnetか内閣府令第10条第5号の要件を満たすページで先に公表する。
決算説明会の質疑応答にも、金融商品取引法第27条の36のフェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」)が適用されます。内閣府令が定める取引関係者には説明会の参加者が含まれるため、未公表の重要情報を伝える場合は伝達と同時に公表し、質疑の流れで意図せず伝えた場合は、伝達を知った後、速やかに公表します(同条第2項)。
公表の方法は「重要情報の公表に関する内閣府令」第10条が定めています。取引所への通知(TDnetでの適時開示、第3号)と並んで自社ウェブサイトへの掲載(第5号)も公表の方法の一つですが、第5号は、ウェブサイトに掲載された重要情報が集約されている場合で、掲載した時から少なくとも1年以上、投資者が無償でかつ容易に閲覧できるようにされているときに限っています。決算期ごとのページに書き起こしを載せただけでは、この要件を満たすとは限りません。
公表済みの資料の範囲で答えた質疑であれば、FDルールによる公表の義務は生じず、書き起こしの公開は説明会に参加できなかった投資家への情報提供として扱えます。2026年7月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」)の原則1-1の解釈指針は、株主との建設的な対話を促進するための方針に、個別面談以外の対話の手段の充実に関する取組み(例として投資家説明会やIR活動)と、FDルールが適用される重要情報の管理に関する方策を記載するよう求めています。質疑応答の公開の範囲と社内確認の手順は、この二つの項目にまたがります。改訂を踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限は2027年7月末日です。
説明会に参加できなかった投資家は、公開された質疑応答で、他の投資家が何を聞き、経営陣がどう答えたかを確かめます。質疑応答が公開されていないと、参加した投資家との間に情報の差が残ったままになります。
書き起こしは決算期ごとに説明資料・動画と同じページにまとめ、掲載日を書いておきます。重要情報の公表にも使うページとして運用するなら、第5号の要件に合わせて、集約の方法と1年以上の掲載を社内規程に書きます。
03動画・音声・全文書き起こし・要旨の比較
POINT動画・音声は当日中に出しやすく、全文書き起こしは検索と英訳がしやすい。要旨にする場合は、質問ごとに1項目を立て、省いた質疑が出ない形にする。
質疑応答の公開には、動画、音声、全文の書き起こし、要旨の形式があり、複数を組み合わせる会社もあります。投資家の側の使いやすさと、社内で確認する点を形式ごとに並べると、次のようになります。
| 形式 | 投資家の側の使いやすさ | 社内で確認する点 | 投資者の声での扱い |
|---|---|---|---|
| 動画 | スライドと発言を合わせて見られる。特定の発言を探しにくい | 質疑の部分を切り取らずに載せているか。会場の参加者の映り込み | アーカイブ配信の提供が重要との声 |
| 音声 | 移動中に聞ける。特定の発言を探しにくい | 質疑の部分を切り取らずに載せているか | オリックス:資料と音声を和英で当日中に掲載 |
| 全文書き起こし | 検索・引用ができる。海外投資家が翻訳して読める | 聞き取りの誤り、数値・固有名詞の照合、重要情報にあたる発言の有無 | 東亜建設工業・三陽商会:書き起こしと英訳 |
| 要旨 | 短時間で読める。省いた質疑があるかが分からない | 省く質問を作っていないか。回答の趣旨が変わっていないか | 重要な課題の質疑だけを掲載しない要旨は改善が期待される例 |
東証「IR体制・IR活動に関する投資者の声」(2025年7月22日)をもとにIR支援室作成。「投資家の側の使いやすさ」と「社内で確認する点」はIR支援室の整理です。
動画・音声は編集の手間が少なく、当日中に掲載できる形式です。ただ、海外投資家や、後から特定の発言を探す読み手には使いにくく、全文書き起こしと組み合わせると補えます。全文書き起こしは校正と社内確認に時間がかかる一方で、検索・引用ができ、英訳の元原稿にもなります。要旨にする場合は、質問を選ばずに質問ごとに1項目を立て、回答を短くまとめる方法をとれば、投資者の声が指摘した形を避けられます。

決算説明会の準備から質疑の記録の整理までIR支援室が支援します
想定問答の作成、説明会への同席、質疑応答の書き起こしの校正と英訳まで受け持ちます。数値の照合は公認会計士が行います。支援メニューを見る →04録音から書き起こしまでの社内確認
POINT書き起こしは、IR担当の校正、開示担当による重要情報の確認、発言者の確認の順に回す。直してよいのは聞き取りの誤りまでで、数値の言い間違いは発言を残して注記で訂正する。
書き起こしの社内確認は、IR担当が聞き取りの誤りを直す段階と、開示担当が内容を確かめる段階に分けます。IR担当は、文字起こしの原稿を録音と突き合わせ、数値・固有名詞・製品名を決算短信と決算説明資料に照らして直します。開示担当(情報取扱責任者)は未公表の重要情報にあたる発言の有無を確かめ、発言者(社長・CFO等)は自分の発言の趣旨と違う箇所がないかを見ます。
修正の範囲は先に決めておきます。言いよどみや重複の整理、聞き取りの誤りの訂正までは書き起こしの編集として扱えますが、回答の趣旨を変える書き換えや答えにくい質問の削除をすれば、投資者の声が改善を期待する例と同じ形になります。説明会で数値を言い間違えた場合は、発言を残したうえで「(注)正しくは〜です」と注記を付け、動画・音声と書き起こしの間で内容が食い違わないようにします。
質問者の氏名や所属を載せるかどうかは、説明会の案内で示しておきます。所属を伏せて「質問者A」のように載せる方法もあり、質問の内容が分かれば読み手の用は足ります。
投資家の側では、過去の説明会の書き起こしを並べて、同じ論点の質問が何期続いているか、回答がどう変わったかを確かめます。質問の文言を短く言い換えずに載せておくと、論点の推移を追いやすくなります。
書き起こしの中で資料の数値を読み上げた箇所は、決算短信・決算説明資料と同じ単位と端数処理にそろえます。発言者が概算で述べた箇所(「約30億円」等)は、そのまま残し、資料の数値に置き換えません。
05説明会の当日から公開までの手順
POINT録音と公開の範囲を事前に案内し、動画・音声は当日中、書き起こしは社内確認を経て決めた日までに、日本語版と英語版を掲載する。
説明会の当日から公開までを、次の順で進めます。各段階の担当者と期限は、決算発表の日程表に書き込んでおきます。
録音と公開の範囲を事前に案内する
説明会の案内と冒頭のあいさつで、録音・録画すること、質疑応答を含めて公開すること、質問者の氏名・所属を載せるかどうかを伝えます。オンラインの参加者からの質問も同じ扱いにします。
当日は質疑の記録担当を置く
録音とは別に、記録担当が質問の順番、回答者、回答の中で触れた資料の頁を控えます。この記録は、書き起こしの校正と、意図せず重要情報を伝えた発言がないかの確認に使います。
動画・音声を当日中に掲載する
編集を加えない動画・音声は、決算説明資料と同じページに当日中に掲載できます。質疑応答の部分も切り取らずに載せます。
書き起こしを校正し、開示担当が確認する
文字起こしの原稿をIR担当が校正し、開示担当が重要情報にあたる発言の有無を確かめます。重要情報にあたるおそれのある発言があれば、書き起こしの掲載より先にTDnet等で公表します。
日本語版と英語版を掲載する
発言者の確認を経た書き起こしを掲載し、続いて英語版を掲載します。英語版は日本語版の確定後に訳し、数値と固有名詞を日本語版と照合します。
質疑の内容を経営陣と取締役会に報告する
質問を論点ごとに分けて経営陣と取締役会に報告し、次回の想定問答と説明資料に反映します。CGコード原則1-1の解釈指針が方針への記載を求める、株主の意見・懸念のフィードバックのための方策にもあたります。
—まとめ
東証の投資者の声は、質疑応答を除いたスクリプトや、重要な課題の質疑だけを省いた要旨を改善が期待される例に挙げ、質疑応答を含めた公平な情報提供を求めています。質疑応答を公開するときは、動画・音声を当日中に載せ、書き起こしはIR担当の校正、開示担当による重要情報の確認、発言者の確認を経て載せる流れが基本になります。書き起こしの編集は聞き取りの誤りの訂正と言い間違いの注記までにとどめ、回答の趣旨は変えません。質疑で未公表の重要情報を話してしまった場合は、FDルールに沿って、書き起こしの掲載より先にTDnet等で公表します。公開の範囲と社内確認の手順は、2026年7月改訂のCGコード原則1-1に沿った対話の方針にも書ける内容で、2027年7月末日までのコーポレート・ガバナンス報告書の更新とあわせて決めておく事項です。
執筆
石塚 康一公認会計士/株式会社プライムコンサルティング 代表取締役
監査法人のIPO部門と、証券会社の投資銀行部門(主幹事証券会社の公開引受部)を経て、株式会社プライムコンサルティング代表取締役。数十社の上場準備に携わり、開示書類の作成と会計論点の検討を受け持ってきました。IR支援室では、決算説明資料・ロードショーマテリアルの作成と、会計面の確認を担当しています。
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相談を申し込む出典
- 株式会社東京証券取引所「IR体制・IR活動に関する投資者の声」の公表について 2025年7月22日 https://www.jpx.co.jp/news/1020/20250722-01.html
- 株式会社東京証券取引所「IR体制・IR活動」(「IR体制・IR活動に関する投資者の声」資料) https://www.jpx.co.jp/equities/listing/investor-relations/index.html
- 株式会社東京証券取引所「「資本コストや株価を意識した経営」に関する「課題解決に向けた企業の取組み事例」の公表等について」2025年12月26日(資料2「投資家の視点を踏まえたポイント」) https://www.jpx.co.jp/news/1020/20251226-01.html
- 重要情報の公表に関する内閣府令(平成29年内閣府令第54号)第10条 https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3431/ja
- 金融庁「「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」の公表について」2018年2月6日 https://www.fsa.go.jp/news/29/syouken/20180206.html
- 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」2026年7月21日(コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)、コーポレートガバナンス報告書の更新について) https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20260410-01.html


